(左)京都側から比叡山へのアクセス手段のひとつ「叡山ケーブル」。(右)斜面下から見上げたゲレンデ全体。
最澄が開創した比叡山延暦寺は多くの高僧を輩出し、現在も日本仏教のひとつの中心となっている。そんな比叡山や北山の奥にはいくつかのゲレンデがあると知ってはいたけれど、どうも京都にスキー場のイメージはあわないと感じていた。
この比叡山人工スキー場は、京都の北東に位置する比叡山の頂のひとつである四明岳の北西斜面に開かれていた。1964年に開業。冬は天然雪に加えて人工雪との組み合わせで、そして夏期もグラススキーやアストロスキーで営業をおこなっていた。暖冬による雪不足やスキー人口の減少により、2000シーズンに夏期の営業を休止し、2001冬期シーズンを最後に閉鎖となった。
(左)ゲレンデ下にはレストハウスなどの建物が残っている。
「オールスキー場完全ガイド2000(立風書房)」には以下のように紹介されている。「京都市内、中心街からでも30分。ペアリフト1基と平均12度の人工ゲレンデのスキー場。足慣らしや仕事帰りのひと滑りに多くのスキーヤーが近郊からも集まる。ソリ専用ゲレンデ、スクール、ナイター平日21時30分、休前日22時」。ペアリフトの長さは170m。期間は12月中旬~3月中旬となっているが、これは冬期営業の期間だろう。アクセスは叡山電鉄八瀬比叡山口駅からケーブルカーで山頂下車、徒歩10分。車では、京都東ICより国道161経由比叡山ドライブウェイ山頂まで20km。
京阪電鉄で出町柳へ。そこからは叡山電鉄の電車で八瀬比叡山口へ。さらに叡山ケーブルに乗って、ケーブル八瀬駅からケーブル比叡駅へ。このケーブルカーは日本一の高低差(561m)を誇っていて、急勾配を登っていくと眼下に洛北の景色が広がる。ケーブル比叡駅に降りると、さすがに京都市街に比べて気温がずっと涼しい。私以外の乗客はすべてロープウェイ乗場へと向かってしまった。ロープウェイに乗り比叡山頂から延暦寺方面へ、さらに坂本ケーフルで琵琶湖側へと下るのが一連の観光コースとなっている。
(左)リフト乗場には小屋などが残る。(右)リフトは搬器をはずされたまま残っている。
一方、私は杉林の北斜面につけられた林道を歩く。頭上をロープウェイが通り過ぎていく。10分ほどで視界が開け、ゲレンデの下に到着する。ゲレンデボトムになる左手にはレンタルスキーやレストハウスの建物が、やや廃墟化しながら建っている。右手には緩やかな斜面が広がっている。正面奥、すなわちゲレンデトップに向かって左手にペアリフトが残っている。搬器ははずされ、樹木が繁ってリフトの機器の間に入り込んでいる。
見上げるゲレンデは緩やかな1枚バーンで、基礎練習にはもってこいといった感じ。斜面は背の高い草が点在している。ゲレンデ右脇の道を登っていくとロープウェイ比叡山頂駅に出る。付近一帯にはガーデンミュージアム比叡という庭園美術館が広がっている。その展望塔からは京都と琵琶湖、双方の展望を楽しめるらしい。コンパクトな規模とはいえ、市街地からは身近なスキー場であったことが感じられたけれど、同時に時代の変化も感じざるをえなかった。(現地訪問:2015年8月)
(左)ゲレンデ中腹から下部を見おろす。(右)「オールスキー場完全ガイド2000(立風書房)」を参考につくったゲレンデ図。